外来閑話

こんなことをよく患者さんに話しています。

胃痛 胸やけ

胃酸 

実は極めて有能なガードマンです。もし酸が出なければ重症の食中毒が頻発して今の食生活はあり得ません。食べたものが胃に入ると即座に塩酸が出ます。そして食物に含まれる細菌、ウイルスを瞬殺します。起きている時の酸は無害です。殆ど食べ物に吸収されるのと、昼間は体が立っているので胃も直立しています。胃酸はすみやかに十二指腸に流れます。十二指腸のなかはアルカリ性なので塩酸は中和され消失します。それでも昼間胃痛を感じることがあります。これは胃に傷があるからです。皮膚でいえば擦り傷です。ここにミルクをかけてもなんでもないですがレモン汁かけたらどうでしょう。では胃の傷はいつつくのでしょう。

胃の魔の時間

胃酸は食べ物の刺激で出ます。しかし脳の興奮でも出るのです。寝ているときに脳が興奮すると空っぽで水平におかれた胃に塩酸が出るのです。濃いままの塩酸が長く胃に留まり傷をつけます。最悪胃に穴があいてしまうこともあります。寝ている時の脳の興奮は主にストレスと深酒でおこります。夕方その日のストレスを振り返って強いと感じたら胃酸コントロール薬を服用してその夜を乗り切ればよいのです。

胃酸コントロール薬

実は約40年前に胃薬に大革命が起きていることはあまり知られていません。胃潰瘍十二指腸潰瘍を繰り返す人には外科手術が行われていました。酸が出ない胃につくり変えたのです。消化器外科の手術の多くを占めていました。新しい薬の出現でこの手術が地球規模でなくなりました。H2ブロッカー PPI PCAB などが開発され胃酸コントロールはほぼ完成されています。以前の薬とこの薬の力の差は空気銃と機関銃くらいでしょうか。とにかく完璧です。

胃は強いですか?

胃症状で来られる患者さんにはこの質問をします。強いと答えられる方は恐らく脳が興奮しても過剰な胃酸分泌がなくて胃に傷が出来にくいと考えられます。ピロリ菌もない人が多いです。但し物事には裏があります。傷があっても感じない人がいます。これは個人差なので致し方ないですが胃が発するサインを感じ取ることができないことになります。
胃が弱いとおっしゃる方には寝ている時の胃に傷がつきやすい状況があると考えられます。ピロリ菌感染も可能性が高いです。一方で胃には問題ないのですが、酸に対する感受性が強すぎて痛みを感じる方も稀に見られます。

咽頭炎 ウイルス性 細菌性

風邪の始まりはすべてウイルス感染です。体力があれば4-5日で抜けます。この時期は感冒薬だけで治療します。ウイルスには抗生物質は無効です。そればかりか肝臓、大腸に害があります。風邪がこじれて寝汗 色のある痰(黄色、緑色)倦怠感が加わると細菌感染が考えられるので、肺炎予防のためにも抗生物質が必要になります。しかし毒を制するためにあえて抗生物質という毒を飲むのだということを自覚してください。

下痢

急性の下痢は直前に食べたものに原因があることが多いです。食中毒です。おう吐、嘔気、腹痛、水様下痢を伴います。主に細菌、ウイルスが原因です。当院では必ず便の細菌培養と採血を行います。病原性大腸菌が良く見つかります。細菌性下痢には抗生剤が必要です。ウイルス性には特効薬がありません。症状緩和する薬でしのぎます。いずれも脱水には注意が必要です。水分補給は倍に薄めたスポーツドリンクを十分取ってください。おしっこの量と濃さが目安です。
下痢になりにくいからだにするためには自分の大腸菌を健全にすることが大切です。快便がバロメーターです。食物繊維と乳酸菌です。大腸菌の餌は水様性食物繊維です。海藻類はこれが豊富です。普段の備えが大事です。

発作性下痢 過敏性腸症候群

急に便意が強くでて下痢になります。日常生活に支障が出る深刻な事態になります。しかし治療薬が進歩してかなり管理が楽になっています。

便秘

「私1週間に1度なんです。」と平気な顔でおっしゃる方が時々おられます。毎日出ている方には「あの量がどうやって七日分溜められるのだろう」と不思議に思われるはずです。答えは便の量にあります。一日に食べたものは消化吸収されて肝臓に行きます。食物繊維は消化できずに残ります。これが便になると理解されている方が多いですが、その一日の量はスプーン一杯くらいです。これでは催す量にはなりません。出なくても平気なのです。
ではあのバナナほどのボリュームの正体はというと、それは大腸菌なのです。最近のトピックになっている腸内細菌です。もともとこれは別の生き物です。大腸の中に暮らしているのです。別の言い方をすれば腸の中にペットを住まわせているのです。ペットに毎日餌を与えなければ動物虐待?です。大腸菌の餌は食物繊維なのです。健康のために野菜、野菜といわれますが、なぜ必要?と訊かれて答えられる人は少ないです。それは自分の腸にいるペットに食物繊維という餌をやるためです。

この大腸菌ですが人間に害の無いおとなしい生き物ではありません。腹膜炎は大腸菌が引き起こします。治療しなければ3日で命はおわります。「背に腹は代えられない」とは背中を刺されても助かる場合もあるが、腹を刺されたらお終いだという意味です。
「快食快便」という言葉は真理を言い当てています。健康のバロメーターです。なぜかというと快便とは十分な大腸菌が腸内で増えた結果だからです。体内に危険な大腸菌が大増殖することは危機です。これに対して体は防衛体制を準備します。免疫細胞を増産するのです。大腸に問題ない限り敵は静かに出ていきます。免疫細胞は体を廻ります。そこで遭遇する病気の原因となる細胞を掃除します。その結果健康が維持されるというわけです。ペットに餌やらないのは動物虐待です。そして私たち人間の健康維持に実に有害なのです。煮た野菜 海藻 乳酸菌が基本です。

腹部エコー

昔から診察は「見る」「聞く」「触る」が基本です。エコーはこの「触る」の延長にあるものです。触った部位の奥を音波で探るのです。名医は触れば判るといわれてきましたが現代の医者の手には深いところまで見る道具があります。勘に頼るだけの時代でなくてよかったです。

胃バリウム検査

時代の進歩にともなって新旧交代は必然の結果です。内視鏡で得られる情報を10とするとバリウム検査では3程度になります。放射線被ばくが最大のデメリットです。企業検診などで行われている低コストの胃バリウム検査は避けた方が賢明です。外せないのはピロリ菌の有無を知ることです。

ピロリ検査

胃粘膜で増殖したピロリ菌は大腸まで生きたまま移動して便にまざって排泄されます。これが3歳までの赤ちゃんの口に入ると新たな感染が成立していました。現在の日本では水洗トイレが普及したためこの感染はほぼゼロになっています。
ピロリ菌検査には培養、顕微鏡観察 ウレアーゼ活性検査 抗原抗体反応検査 血液ピロリ抗体検査など多数あります。錠剤を飲んで風船の膨らますウレアーゼ活性検査が多く行われていますが偽陰性が2割くらいあるので当院での判定には使いません。ピロリ菌を弱らせるヨーグルトや制酸剤などによってウレアーゼ活性が落ちて判定が陰性に出るのです。当院で除菌判定に用いている抗原抗体反応検査は菌の表面を免疫反応で検知するのでたとえ菌の死骸でも陽性に出ます。医学の世界では偽陰性を最も嫌います。結果が命に係わるからです。