痔について

痔にはいわゆるイボ痔、切れ痔、痔瘻がありますがここではイボ痔について説明いたします。

殆どの哺乳動物は四足で歩行します。胴体はハンモックのように地面に平行で内臓は腹壁全体で受け止められます。
ところが人間は直立2足歩行に進化しました。その結果内臓の重さは主に骨盤にかかります。
その結果骨盤内の圧が高まり、肛門は充血しやすくなります。これが宿命的な痔の原因なのです。

肛門のクッション

直腸にたまった便が肛門を通るとき普段は閉じている肛門の括約筋が緩みます。
しかし便はいつも軟らかいとは限りません、硬かったり、大きかったりすると肛門との摩擦が発生します。
この摩擦は肛門粘膜に傷をつけることになります。しかし、これを巧みに防ぐ仕組みが備わっています。

まず肛門腺からゼリー状の粘液が出ます。
これは潤滑剤として作用します。さらに肛門の内側には静脈叢という血管のスポンジのような組織があります。普段はしぼんでいますが排便のときに充血して膨らみます。
これがクッションになり硬い便が出るときに肛門管に傷がつくことを防ぎます。
排便が終了すると溜まっていた血液は静脈に戻り、充血は速やかに解消します。

なぜ痔は発生するのでしょう

一言で言うと肛門の充血が解消しないまま時間がたってしまうためです。
その原因はいくつかあります。例えば充血した部分が肛門から脱出して中の血液が戻れなくなった場合、しゃがむ姿勢で長時間作業をする、あるいはおしりを冷やしてしまうことなどです。
深酒も原因のひとつです。慢性化すると次第に大きいものになっていきます。

痔の症状で困るのは出血と痛みです

出血は痔の表面に傷がついて内部にたまった血液が噴出するために起こります。
その勢いから不安になりますが一度で貧血になるようなことはありません。
しかしいったん傷がつくと1週間位、お通じのたびに出血することが多いようです。

痛みで最も強いものは痔核陥頓という状態で、椅子に座るどころか歩くことも困難になり救急病院に飛び込むことになります。
これは脱出した痔核に血液がたまり続けて異常に膨らんでしまうためです。この場合、緊急手術を行う事になります。

もうひとつ肛門に小豆大から小指の頭くらいの塊が出来て強い痛みを感じることがあります。
血栓性痔核といわれるもので、固まった血栓を除去する小手術ですぐに楽になります。外来で出来ます。

外科手術を受けるべきか

痔の手術は単に悪い部分を全部切り取ってしまうというものではありません。
毎日の排便という重要な機能を残しつつ痔を取り除かなければなりません。
私が手術を勧める判断基準は、1)痔の重症度 2)ご本人がどのくらい痔に悩まされているか、ということです。

手術の狙いは二つあります。
ひとつは伸び切ってしまった痔の組織を切除すること、もうひとつは肛門に流れ込む血液のコントロールです。
これは直腸から肛門に入ってくる主な動脈を縛ることでなされます。
これで術後殆どの方が満足する結果が得られました。
しかし1週間程度の入院と術後の煩わしさは辛抱して頂かねばなりませんでした。
最近は新しい治療法が考案されて来ていますがその評価が固まるにはしばらくかかると考えられます。
ともあれ手術は最後の手段として頼りになるものです。

毎日のケアで痔はよくなる

はじめにも述べたとおり痔の原因は肛門の充血です。いかにスムースにこの充血を解消してやるかがケアの本質です。
まず充血を過大にしないようにトイレで力む時間を出来るだけ短くします。
同様に腹圧を長い間かけ続けること(例えばしゃがんだ姿勢を長く続けるとか重いものを長時間もちつづける、あるいはおしりを冷やすことなど)を避けます。

もうひとつの大事なことは排便したあとの腫れた部分が肛門から出ている場合必ず肛門の中に戻すことです。
トイレ以外で肛門が腫れた場合も同じです。
自分の手を使って戻します。そのためにもトイレにはウォシュレットなどの洗浄器が必要です。多少のコツがいることですがすぐ慣れます。

腫れた部分が肛門内に戻されるとその充血は僅か20-30秒で解消します。
同時におしりがスッキリします。これを習慣にすると必ず痔は快方にむかいます。
痔の座薬などもこうした作業のあとで入れてください、効果が何倍か違うはずです。

痔だとばっかり思っていたら。

肛門に異常をきたす病気は他にも多数あります。
もちろん痔が最も多いですが、自己判断だけで済ませていると大変な結果を招くことがあります。
癌、慢性炎症性腸疾患、自己免疫疾患、感染症などがあります。頻度は低いですがきちんと専門的な診察を受けてください。